おバカなSide stories♪◆◆◆vol.03
IN THE THEATER+++[03]
「そっかっ。じゃあ別にいいぜっ」
意外過ぎるくらい余りにそっけなく返事をする涼に思わずツッコミを入れる一。

「・・・・おい。
こいつ、ツッコム時はしつけーくらいやるくせに、なんでそうムラがあんだよっ。」
「そんなの面白ぇからに決まってんじゃねーかっ。今更聞くことでもないはずだぜ?」

全く動じることもなく視線すら向けずに言葉を返す涼。こんなやりとりもお決まりのパターンなのだ。
一の方も幾度となくつぶやいたセリフがまた口をついて出る。

「・・・・ったく、ああ言えばこう言う・・。ちったあ黙ってろッ…!!」

毎度のこととは言え、ついついため息が出る一。
言うが早いか隣の茶髪の頭をパシリと叩いていた。



"新入生?一体なんのこと?"
女はわけもわからず声をかけてきた男に尋ねた
しかし男は苦笑して頭を振り、こういうのだ
「何を言うのですか。あなたは選ばれたのですよ。
さあ、これを着なさい。これであなたも我々の一員になれますよ。」
渡されたのはセーラー服
まわりを見ると若者から老人までみんながみんな学ランを来ていた
「ここで着替えろとは言いませんよ。更衣室にいって着替えてきなさい。」
中年の男がそういうと、ここに連れてきた高校生風の男が、
「逃げないように僕がついて行きましょう。」
と、にっこりと微笑んで女を更衣室へと連れて行く

更衣室まで連れられて来た女が男に問いただす
「ここはどこなの?あなた達は何者?どうしてこんなことをするの?」
その問いに顔から微笑を消すこともなく高校生風の男は答えた



「…っつっ……何しやがんだよっ!
ったく、親父にだって殴られたことねぇっつーのによっ」

いきなり頭を叩かれ思わず声を上げる涼。しかしその言葉が真実かどうかはかなり怪しい。

「ウソつけっ。オメェみてぇなドラ息子殴らねぇオヤジなんざ、よっぽどの腰抜けか、仏サンみてぇに人間のできたヤツぐれぇだろッ」

ここまで自尊心の強い俺様的性格のこの男が父親に歯向かうこともない「できた息子」だなどとは天地がひっくりかえってもありえない。間髪を入れずに言い返すと満足そうに一言付け加えた。

「ま、ありがたくとっとけ。オレの愛のムチだ」

あっさり事も無げにそう言われてこの茶髪の男が黙って聞いているはずがない。

「そういうこと言うかよっ
俺はマゾよりサドの方なんだぜっ、てめーに叩かれる筋合いはねーんだよっ!」

その言葉が終わらない内に一の額に痛みが走る。
「・・・・ぃいッッ・・・・!!」
思わず額を押さえてシートにうずくまる。どうやらお返しにデコピンを食らったらしい。

「見ての通り、ここは学校ですよ。」
若い男はあっさりと答える
「学校って・・・。それはわかるけど、私が聞きたいのはここで何をやってるかってことなのよ」
「それは着替えて教室に戻ればわかりますよ。
とにかく着替えを先に済ませてください」
自分がどこにいるのかもわからない状態で、今ここから無理に逃げるのはかなり危険なことだ
取り合えずここは様子を見るしかないと感じた女はしぶしぶ用意されたセーラー服に着替えることにした
「なんなのコレ・・・、今どきこんなの流行んないわよ・・。」
一昔前と思われるようなオードソックスなデザインが、女には気に要らないらしい
が、ぶつぶつ言いながらも数年振りに学生服に袖を通して女の気も少し晴れたようだ

若い男は更衣室から出て来た女を見て言った
「いやあ、お似合いですよ。やっぱりキレイな人は何を着ても似合うんだなあ」
男の言葉に女はなんとなく上機嫌になる
「じゃあ戻りましょうか」

教室に向かう途中で女は我慢出来ずに尋ねた
「ねぇ、さっきここは学校って言ったけど、何を教えてるの?
新入生ってことは、私も生徒の一人なんでしょ。
いまさら何の授業を受けろって言うのよ」
すると男は立ち止まるとにっこり笑って言った。
「さっき言ったじゃないですか『あなたには銀行強盗がお似合いです。』って。」
女は一瞬自分の耳を疑った



「・・・・ってぇ〜〜っ!!オレだって叩かれて喜ぶようなシュミなんてねぇよっっ!!」

余程効いたのか、しきりに額をごしごしとこする一。

「ったく、デコピンなんぞ食らったの、何年振りだよ・・・。」
ため息交じりにつぶやいた声に涼が嬉しそうに応える。

「ははっ、んなこたわかってるってっ。このまま俺が叩かれ損すんのが嫌だっただけだぜっ。」
「・・・たく・・・。」

似たもの同士というだけあって毎回やられたらやり返すというパターンに陥るこの二人。
端から見ればまるで子供の喧嘩と同じである。



そんな女のことを気にもしないで男は続ける
「さあ、早くしないと授業が始まってしまいますよ。
僕等だけ取り残されてしまうといけませんので早く行きましょう。
ああ、今日はどんなことを教えてくれるのでしょうか♪」
若い男は心から嬉しそうに微笑んだ
女はまだまだ聞きたいことがありそうだったが、若い男の嬉しそうな顔を見て取り敢えず止めた

二人が教室に戻ると、既に生徒達は席についていた
教壇には最初に声をかけてきた中年の男が立っていた
彼が先生だと言うのだろうか

「遅れてすみません。着替えに思った以上に時間をかけてしまって…」

「構いませんよ。それより速やかに席につきなさい。」
若い男は中年の男に促され、自分の席に向かって行く

「あなたは僕の隣の席ですよ。丁度この前彼に『不幸』がありましたから。」
女は何も言わずにすすめられた席についた
心の奥に『不幸』という言葉が引っ掛かってはいたが…




基本的に一人でぶらりと出かけるのが好きなせいか、敢えて人が集まるような場所には足が向かない一。叔父の京四郎がたまにレンタルショップで借りてきた作品を横から一緒になんとなく眺めていたり、幼馴染の美神に強制的に映画館へ付き合わされたことは幾度なくとあるが、自分から映画を観るという行動を起こすことは滅多にない。仮に観るとしてもついつい感情移入してしまいそうな内容の作品は苦手だ。しいて言えばアクション映画や、こんな不可解な内容の方が観ていて気楽ではある。
片や隣に座っている自尊心の塊のようなこの男は映画観賞は嫌いではないらしく、たまに出かけては時間を潰しているようだ。その点についてはこの二人には珍しい相違点だが、好みの作品のタイプとなるとなぜかおかしいくらいに一致してしまうのだろう、相変わらずの毒舌で文句をつけつつ私語を交えながらもそれなりに楽しんでいるようにも見える。


「謎すぎるぜっ…この先の展開が気になるところだなっ。
ビラには『過去を振り返らない意欲作』って書いてたからなっ…」
どこかで宣伝用のチラシでも見たのだろう、思い出しながらつぶやく涼の隣からすかさず声が上がる。

「振り返れよっ、たまにはッッ・・・!!だからこんなワケわかんねぇ内容になっちまうだろがっ!」

予想以上の不可解な内容にいつもの如くつい声を荒げる一。
期待した通りのその反応にスクリーンに目を向けたままの涼の顔に思わず笑みが浮かぶ。

「そのわけわかんねーとこがいいんだけどなっ」



なんだかんだ言いながら、てめーだってイヤじゃねーだろ。



後に続くその言葉を敢えて口には出さなかった。込められたその意味が隣のこの男には間違いなく伝わっているという確信がある。それが理解できない相手ならばこんな所へ誘ったりはしない。


その読み通り、ほんの一瞬かすかに一の動きが止まる。
まるでその心を読んだかのように。その声で思い出したかのように。


認めたくはないがその通りなのだ。
甘ったるい恋愛物だとかスポ根まっしぐらな青春物だったら既にもうこの席には座っていないだろう。こんな滅茶苦茶な内容を好むのは涼らしい選択と言える。それはまた一自身にも言えることで。
なんのかんのと悪態をついてはいるが、自分と一番近い思考を持っているこの男が誘いをかけてきたくらいなのだから、正直嫌いではないのだ、こんな破天荒なストーリーは。



「・・・要するに何も考えねぇでボーっと見てろってコトか。」
大げさにため息をつきながら更にシートにふんぞり返るが、その言葉としぐさが先程の涼の確信が思い過ごしでなかったことを証明している。
「まっ、そうなるなっ。先の展開を予想しようとしたって無駄なだけだぜっ」

答えつつにやり、とほくそえむ。



なんでこうまでこいつはオレと似てるんだか。

変に遠慮し合うわけでもなく、かといって干渉し合うわけでもない。二人でいても一人でいるのと変わらない感覚でいられる。それがこの微妙な付き合いが続く理由の一つなのかもしれない。しかしそんなことすらこの二人はきっと改めて考えてみるようなこともしないのだろう。


誰が見ても決して仲良しと言える雰囲気ではないし、そんな付き合いをするつもりもない二人だが、唯一共に認め合っているのがお互いに「暗黙の了解」と呼ぶこの意思の疎通である。特に何を相談しあったわけでもないのに、ふっとお互いに相手の考えが通じる時があることに気づいたのは、知り合ってまだ間もない頃だった。自分の気持ちを素直に口にできない性分の二人にとってはお互いに相通じるものがあるのだろう。しかし、互いのその無愛想な性格が生んだと言っても過言でないその便利な機能は幸か不幸か隣にいるこの相手にだけしか通用しないらしい。

「でもこんだけ先が読めえねぇ映画ってのも珍しいな・・。」
展開の激しさに多少馴れてきたのか、一がふと漏らす。
「お・・、コレって最後どうなんのか賭けるってのもいいなァ」

その言葉を隣の好奇心旺盛な男が聞き逃すはずがない。
「それもいいかもなっ。じゃあ俺は皆死ぬに賭けるぜっ」
「・・・・おいおいおい。なんでそうなるんだよっ。」
早速話に乗ってきた涼に呆れながらもすぐその気になる一。
「オレはー・・・全員ムショ行きだと思うがな」

こうして映画の結末を予想する賭けが成立した。


2人が席に着くと、教壇に立っている中年の男が口を開いた
「えー、先程先生から連絡がありまして、今日は所用の為少し遅れるそうです。
その間、各自前回までの復習なり次の予習なり、自由に過ごしてください。」

それを聞いたまわりの生徒からはざわめきが起きる
「残念だなぁ、今日の授業は特に楽しみにしていたのに」
隣に座っている男がポツリとつぶやいた

「あ、それから今日は新入生を紹介します。なんとこのクラスには初めての女性ですよ。
さ、こちらへ」

女はこんな所で自己紹介などする気もなかったが、周りから一斉に拍手喝采を浴び、渋々席を立った
教壇に立ち他の生徒の顔を見ると、みんな心から楽しんでいるようだ

(・・・・なんなのここは一体・・・?)

困惑している女に教壇に立っていた男が声をかける
「では簡単で結構ですので、自己紹介をお願いします。・・・ぁあ、別に本名を名乗る必要はないですよ。
みんなここでは仮の名前で通していますから。
ちなみに私は『C委員長』と呼ばれています。」

『C委員長』はそう言ってにっこり微笑んだ。



変わった名前のヤツだな、と一が感じた時、背後に感じる気配。
ちらりと視線を向けると数列程後ろの席にカップルが来て腰を下ろしている。館内が暗いのをいいことに、やたらと仲睦まじく語り合っているようだ。それを見てこの後の彼らの行動が多少想像がついたらしく、鬱陶しそうにつぶやいた。




「・・・うるせぇのが来やがったぞ・・」



『C委員長』に促され女は渋々ながら口を開いた

「私は…『眠れる森のマリアーナ』。ここ…」
「長い!」
「…は!?」

自己紹介の途中でいきなり一人の生徒が割って入る
よぼよぼのじいさんだ
「なんでも好きな名前を名乗っていいわけじゃないぞい。特に3音節以上になるなんてもってのほかじゃ。
ちなみにワシはツッコミ役の『ジャンプ一番!』じゃ。最後のびっくりマークがポイントじゃぞい」

女はしばし呆気に取られていたが、気を取り直してまた話し始めた

「…じゃあ『マリアーナ』でいいわ。
ここに来たのは…街を歩いていてさらわれたからね。本当はすぐにでもここから出たいんだけど…そうもいかないみたいね。
それなら代わりに教えてよ!ここは何をする所なの?」

すると聞いていた『C委員長』がすっと前へ出てきた

「愚問ですよ、『マリアーナ』さん。さっきも言いましたように、あなたは選ばれてここにいるのです。
あなたはただ黙って授業を受けていればこの先の道を確保することができるのですよ。」

そう言うと今度は生徒に向かい声高らかに語りかける
「それでは皆さん、新入生の『マリアーナ』さんを温かく迎えてあげましょう。
もちろん今まで通り自分で成長させる温かさで構いません。むしろそうしてください。」

『C委員長』の発言が終わるや否や、教室内には賛同の拍手が巻き起こっていた




「大丈夫だって。そのうちいやでも出てくだろうしよっ。
この監督の作品はカップルを寄せ付けねーことでも有名なんだぜっ」


気にも留めない風でそう軽く返す涼。
その言葉通り、程なく女の方が退屈し始める。急激な話の展開に付いて行けない客が多いのか、カップルで見に来る連中はたいてい途中で飽きて席を立っていくらしい。

手持ち無沙汰な風の女はスクリーンの明かりを頼りにあちこち眺め始める。そして数える程しかいない他の観客を観察しだしたかと思うと、その視線はやがて涼と一に向けられた。


作者アトガキ◆◆◆
上映中もお構いなしに毒舌全開のこのコンビ。妙に通じ合ってる所が笑えます♪
そして更に謎のカップル登場。ここから話はとんでもない方向へと……♪



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